久々の更新です!
今回の記事はInstagramに投稿したものに、少し加筆したものです!
▼プロローグ▼
なぜ厳冬期薬師岳を目指したのか。
それは、2022年夏。
薬師如来様が祀られている薬師岳山頂の祠の解体作業に携わったことに端を発する。
50年ぶりの薬師堂改修工事のため、一旦祠を解体し、そこに新たに祠を建てるため、石垣を組み囲いを作って2022年夏の作業は終了した。
2023年春以降に、新たに祠を再建するまで、山頂には標識意外「何もない」
僕は、この何もないという貴重な時期の薬師岳山頂でテントを張りたかった。
「何を不謹慎なことを!」と思う方も居るかもしれないが、薬師如来様に代わって、全人類の無病息災を祈りたいと思い、厳冬期薬師岳を目指した。
▼厳冬期薬師岳への挑戦▼
日程:2023.1.12〜13
結果の報告を先にしておくが、「厳冬期薬師岳」を目指し、単独で丸二日間死ぬほどラッセルしたものの、進み具合や雪の状況、残体力などを考慮し、太郎山まで行き撤退。
▶︎DAY1
行程:亀谷料金所〜折立登山口〜標高1700m
深夜1:00すぎ 亀谷料金所スタート
有峰林道約20kmは冬季閉鎖中のため、徒歩で折立登山口に向かう。
チャリで有峰湖まで行くことを山スキー界隈で「チャリミネンコ」というらしいがこの場合は「トホミネンコ」かな。
ゲートから100mほどの亀谷トンネルまでは気持ちばかり除雪がなされていたが、まったく期待は膨らまない。
亀谷トンネル出口からスキーを履いてのフルタイムラッセルが始まる。
有峰までには7本のトンネルがある。
つまり、スキーを脱がなければならず、おまけに一番長いトンネルで1.5kmほどあり、ウォークモードがあるとはいえさすがにスキーブーツではキツイ。
なのでトレランシューズに履き替える。
この作業はトータルしてかなり時間を食った。
林道は終始、スキーをもってしてもブーツの丈ほど沈み込むラッセル。一歩一歩が重たい。
大きなデブリが一箇所、安全策を取りスキーを脱いでワカンに履き替える。
そして何より厳冬期テン泊装備は重い。
「旅」と形容するにはあまりに過酷な道のり。
7時間半かけて有峰湖岸に到着した。
すでに陽が昇って、喜びのピーカンの反面、暑くて雪が重くなってきた。
9:00ごろ 有峰ビジターセンター
有峰ビジターセンターに差し掛かると同時に、上空からヘリが飛来しヘリポートに着陸した。
中から3、4人ぐらい一気に降りてきて、そのうちの一人がものすごい勢いで腰まで埋まりながらラッセルで近付いてきた。
「やだ!何?こわい!県警?捜索隊?俺、なんかやらかした?」
と一瞬ドキッとしたが、
「電力会社の保守点検です!」とのことだ。
おどかしやがって。
山に詳しい方のようで僕の行程に興味津々で、少し話し込んでしまった。
できればそのヘリに乗せてほしい。
あわよくば明日迎えに来てほしい。
心の声が漏れそうなのを喉元で抑えた。
積雪期は有峰から新折立トンネルに繋がる谷を直登するのだが、水流音がして「もしや埋まってないかも」と思い、林道を詰める。
例年はこの林道がデブリで埋まってるのだが、今年はまったく埋まっていないし、雪崩れてる様子もない。やはり雪が少ない。
12:00ごろ 折立登山口
ようやく着いた折立は、亀谷料金所から10時間半を費やした。
登山口まで10時間半て。
ここまでのフルタイムラッセルは、時給1800円ぐらいもらっても割に合わない。
山頂で飲もうと持ってきたレッドブルは、折立で早々に喉奥に吸い込まれていった。
正直、早く帰りたい!重い!ツライ!
お風呂入りたい!コーラ飲みたい!
と欲求ばかり膨らむが、ここにはそれを叶えるものは何ひとつ無い。
とりあえず味噌バターラーメンを食べた。
スープが冷めるのが早く、バターが溶けずに最後はかじって丸呑みした。
こういうときに限っては、高カロリーという罪悪感はまったくない。むしろ正義でしかない。
行くも退くも地獄なのでとにかく前に進む。
折立登山口からは夏道沿いをトレースして必死こいて尾根に取り付く。
さらにラッセルが深くなり悶絶。
尾根に乗るまでもかなり苦労した。
取付きの斜度がキツイ。
細かくジグを切ってラッセルし、ウィペットを木に引っ掛けて身体を持ち上げ、何度も唸りを上げながら尾根に取り付いた。
雪がとにかくフッカフカなんだが、気温の上昇とともにベタつき始めて、重たくなってきた。
もうほんと最悪。
16:30ごろ 標高1700mアラレちゃん
最低でも今日中には、なんとか五光岩ベンチの辺りまで行きたかったが、日没までに幕営したかったので、標高1700m辺りの通称アラレちゃんポイント(今はアラレちゃん居ない)でビバークを決断。
驚くほどに風が無くて穏やかで、厳冬期とは思えない気温は快適だったが、静かで不気味な夜だった。
雪を溶かして水を作り、ご飯を食べたりなんやかんやして、19時ごろに眠りについた。
ビバークポイントの眼前には大日岳がそびえ立ち、夕陽に沈み月夜に輝く山々はとても綺麗で印象深かった。
寝ていたら、テントのそばでザクザクと雪を踏む音が聞こえた。動物だったと信じたい。
▶︎DAY2
1700m〜太郎山〜折立〜亀谷料金所
深夜0:00 起床。
不気味なほど静かな夜。風がない。
深夜1:00 テントを撤収し再出発。
荷物も脚も相変わらず重い。
滑るには申し分ないパウダースノーも
歩くには深すぎる。
昨日の行程は目標に標高400mほど届かず、夏なら大したことないが今は致命的だ。
焦りはすれど、樹林帯を抜けると世界が変わり、月夜に照らされたアルプスの峰々が気持ちを満たしてくれた。
背中には、富山のマッターホルン鍬崎山と富山平野の夜景を抱えている。
贅沢な空間だけど、正直もうラッセルしたくない。
この先は五光岩ベンチ(標高2186m)から夏道を通らず、一旦岩井谷に滑り落として、ラッセルしてハイジ尾根に取り付き、直接薬師岳山荘に乗り上げる行程となる。
5:30ごろ 五光岩ベンチ
目標の5時までに五光岩ベンチに惜しくも辿り着けなかったので、これからの雪質の変化や残体力を考慮して、薬師岳を諦め、第二案としていた太郎山を目的地と設定した。
この決断は結果として良かった。
6:50ごろ 太郎平小屋に到着。
すでに空は明るくなり、眼前に広がる薬師岳が煌々と存在感を放っている。
どういう現象か小屋周りの雪は風で飛ばされて、小屋が半分露出していた。
7:10ごろ 太郎山 山頂
荷物をデポして一気に太郎山に登り、今か今かと日の出を待つ。
ここから太郎平越しに見る薬師の景色が好きだ。
悔しさはあるけど、この景色を見れただけで、努力が報われる気もした。
遠くにそびえる鷲羽岳とワリモ岳の間から、光が差し始め、アルプスが目を覚ます。
「アルプスのめざめ」
なんかそんな名前のじゃがいもあったような。
インカのめざめが頭をよぎるも、五感を震わせる壮大な景色が強制的にかき消してくれた。
これはすごい。いや、すごすぎる。やばい。
いやマジでやばいわ。やばいね。
僕の語彙力も強制的にかき消された。
iPhone14の力はすごい。写真も綺麗。
だけど、五感で感じるこの感覚には勝らない。
目一杯全身でアルプスを感じたら、さっさと下山だ。
8:00ごろ 太郎平より下山開始
すでに気温が上がり始めているのを感じる。
昨日今日の異常な天気、気温の高さは厄介。
ストップスノーになれば滑走は困難になる。
早いうちに標高を落としたい。
太郎坂の尾根は何度か登り返しがあるので、手間を省くためシールを履いたまま滑走。
テン泊装備が重くて、ターンの度に身体を振られて思うように滑れないのは、今後の課題だ。
標高1800mほどまで落としたら、尾根から谷筋へトラバース気味に落とし、直接折立に繋がる谷を滑らなければならない。
何度も地図を見直して、ドロップポイントを確認したが、地図に載らない小さな尾根に巻き込まれ、間違った谷へ落ち込んでしまう。
気が付いときにはだいぶ降りてしまっていた。
しまった。なんてことだ。
脳内でクールポコが叫んでいる。
「なーーにぃーッ⁉︎やっちまったなぁッ‼︎」
「(男は黙って)登り返せ‼︎ ×2」
いや、だいぶ降りてしまったけれど、このまま谷を落としても、林道に乗れそうだ。
万が一ダメなら、登り返せば良い!
クールポコをかき消し、シールを履いてラッセルしたり滑ったりしながら、徐々に標高を落とす。
12:00ごろ 林道復帰
リカバリーに1時間半費やしたが、なんとか林道に降りられた。
必死こいて降りてきたので、写真はない。
赤が本当は滑りたかったライン。
緑が間違って滑ったライン。
小さな尾根のうねりに巻き込まれたことに気が付かず、沢筋まで落としたところで気が付いた。
13:00ごろ 折立登山口
1時間ほどラッセルして折立へ復帰。
やっと折立へ降りたて。。。
安堵感が半端なかった。
結果オーライであったが、命に関わること。
これは大いなる反省点である。
カップヌードルを補給してあとはご想像通り。
斜度があったりなかったりの林道を、滑ったり歩いたり滑り歩きしたり、スキー脱いだり履いたり。
3箇所ほど新たな雪崩により、行きのトレースが潰れていたのは怖かった。
おまけに雨でシャバシャバのビショビショ。
僕の前世は相当な悪人だったに違いない。
有峰林道は意外に滑れない。
平坦な道や小さな登り返しみたいな箇所もいくつかあり、よほど雪の締まった時間帯かカリカリバーンなら気持ち良く滑れるかもしれないが、ほとんど歩き滑りだったし、腕で漕ぎまくってパンパンだった。
最後の方は雪が溶けて道路が露出している箇所もあり、ストックも地面を突いた。
なんというかもう、修行だった。
21:00 亀谷料金所カムバック。
1日目の行動時間:15時間
2日目の行動時間:20時間
自分の持つ気力体力精神力、知識経験技術を総動員した大冒険が、静かに幕を降ろした。
「パトラッシュ……疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ……」
みたいな感じです昇天しそうな山行だったが、とても良い経験となった。
何より、この最高の景色をみなさんにお届けできたことを誇りに思おう。
ご覧頂きありがとうございました。
▼おまけ(装備について)▼
テント:ヘリテイジ・クロスオーバードームf
気温も暖かく(といっても夜は氷点下)、穏やかである予報だったので、軽量化のためシェルター泊で。万が一の場合は雪洞を掘る予定だったので、スペックは気にしてなかった。
シュラフ:ナンガ・オーロラライト750DX
厳冬期はこれを使用している。自分はどちらかというと寒さ耐性があるし、これ以上スペックを上げると嵩張るし重たくなるので。
快適温度ー8℃、下限温度ー16℃
この日は快適使用温度の範囲だったし、今までもあまり困ったことはない。
ザック:パイネ・ガッシャブルム
最大100リットル入るモンスターザックだ。
雑にパッキングできるので重宝している。
逆にスカスカになるぐらいなので、シュラフはスタッフサックに入れず、大きめのゴミ袋に雑に入れてから、底に収納して嵩増ししたり、テントも畳まず、ゴミ袋に入れてザックに放り込んだりしている。おかげで撤収が鬼のように早いので、冬は最強。
外側にストラップを付けて、いろいろ外付けできるようにしているが、ヘルメットまで収納できる容量なので、外付けしているのはピッケルとワカンぐらい。
スキー:アトミック・BACKLAND95
とにかく軽いのが良くて、これを使っている。
正直、スキーは歩行具としての要素が強いので滑走性はあまり考えていない。
降りてさえ来られれば良いと思っているので、機動力を重視して軽量化している。
重たすぎる雪やカリカリバーンなどは、板が負けて怖い思いをすることもあるので、板を脱いで歩くことも考えてワカンを携行している。
「結果的に荷物が増えて重くなるのでは?」
と思うかもしれないが、板が折れたり何らかのトラブルで使用できなくなることを考慮してワカンを担いでいる。
単独行ゆえのリスクマネジメントの一環。
その他にも、暖をとるために湯たんぽ用のプラティパスや電熱ベストを持って行っている。
プラティパスは水を入れても凍るので、空の状態で持って行く。
保温ボトルは500と750を一本ずつ、計2本を担いでいる。うち1本にはコーヒーとココアをMIXした飲み物を並々と。あとは水(お湯)。
GPSトラッキング端末にフィールドコネクトという端末を利用している。
自分はこちらでアンバサダー活動をさせてもらっているので、興味のある方はぜひこちらを