僕の「ファーストベア」
最近、熊の出没に関するニュースを見ていたとき、ふと「最初に熊を見たのはいつだったっけ?」と考えていたところ、そういえば18歳のとき熊に遭遇した話を思い出したので、ここに供養しておきます。
そんな時代もあった「陸上自衛隊」
ここだけの話、僕は高校卒業してからすぐに陸上自衛隊に入隊しました。
関西の教育隊を卒業した後、実家に近いからと四国の部隊に配属となり、「普通科」という一見普通そうな部隊の「情報収集」を目的とする全然普通じゃない小隊に配属となりました。
先輩上司は全員「レンジャー」と呼ばれる精鋭部隊で、なんかみんな目がキマッていました。
はじめての演習
情報収集をする偵察部隊員のことを「斥候(せっこう)」と呼びます。
一般部隊配属後すぐに行われた大規模演習訓練。
敵味方チームに分かれて戦闘訓練を行うのは、関西の大きな「A演習場」です。
僕は新隊員ながら「斥候」としてこの訓練に参加しました。
同部隊のベテランS班長とペアで、敵陣地の偵察に行ったり、拠点観察などを行なっていました。
ただ、一般部隊に配属されたばかりの僕は右も左も分からず、とにかく班長の分の荷物も背負って、必死で付いていくだけのほぼ「荷物持ち要員」でした。
無口で物静かなS班長でしたが、相槌の天才だった僕にはよく喋ってくれて、僕のことを「ヤマ」と呼んで可愛がってくれていました。
ヤマ、熊やわアレ
1週間ほどの演習日程も半ばのある晩、S班長が「ここで休もう」と野晒しの山の中でビバークを指示してきました。
ビバークという生易しいものではなく、「着るものだけ着てその場に寝る」といった感じの、いわゆる行き倒れ状態です。
当然寝袋などありませんが、フカフカな落ち葉に埋もれて、なんかいい感じに眠りにつきます。(虫に刺されまくった)
UL思考が強かったS班長は、「要らない物は持たない主義」でした。
10月半ばの遠征で、朝晩は冷え込みの激しい山の中でしたが、「食べてさえいればなんとかなる」と食糧ばかりを待たされた記憶があります。
話は戻って闇世の中、落ち葉の中で横になりウトウトしていたところ、藪の奥から突然「ガサガサッ」と何かが動く音がしました。
うつらうつらとしていた僕が、ハッとして身体を起こすと、班長はすでに中腰に身構えて、その大きく黒い「何か」と睨めっこしていました。
班長はいわゆる敵チームの斥候と思ったらしく、
「だれか」
と誰何をしています。
誰何と書いて「すいか」と読みます。
三度、誰何しても答えない場合は敵とみなします。
「だれかだれか」「だれかだれかだれか」
三度目の誰何を投げかけ、ひとときの静寂を経たのち、班長が僕の耳元でこう囁きました。
「ヤマ、熊やわアレ」
鳴らせ飯盒、走れヤマ
「荷物まとめろ、んで飯盒を出しとけ」
続けて班長が僕に囁きます。
飯盒(はんごう)は言わずもがな、お米を炊くアレですね。飯盒炊飯。鉄の容器です。
官品、いわゆる支給品ですが色々と収納できるので、なんかお菓子とか魚肉ソーセージとか入れてた記憶あります。
僕は「なぜ飯盒ッッッ?」と思いながら、熊と5mぐらいの距離で睨めっこしている班長の背中で、荷物をまとめます。
班長の分と自分の分の飯盒を手元に用意し、「班長、荷物オッケーっす」と合図を送りました。
すると班長が飯盒を手に取り、飯盒に付いている取手を本体に「カチャッ!カチャッ!カチャッ!」と打ち付け、僕に「真似せい」と言いました。
僕はよく分からないまま飯盒を手に取り、同じように「カチャッ!カチャッ!」と取手を打ち付け、睨めっこ状態のままゆっくりと後ずさりをする班長の、半歩後ろを、同じように後ずさりします。
闇世の逃走劇
我々は偵察部隊ですから、当然敵に居場所を知られてはならないので、ヘッドライトなどは点けません。火も焚きません。
ただ月明かりの綺麗な夜で、とても明るかったことを記憶しています。
ハッキリとヤツの姿を目視できました。
デカくて黒く、生々しい艶がありました。
ヤツは警戒して動きません。
カチャッ!カチャッ!カチャッ…
10mほど距離が取れたところで班長が、
「合図したら走れ」
と言うので、ゴクリと息を飲み身構えます。
カチャッ!カチャッ!カチャッ…
ガチャガチャガチャガチャガチャッッッ!
よっしゃヤマ、走るぞ!
と激しく取手を打ち付け、狂ったようにダッシュし始めた班長を必死に追いかけ、息が切れるほど全力で、10分ほど走り続けました。
視界のきく林道に出たところで、班長の「もうええやろ」という合図とともに足を止めると、追手はなく、月明かりの下「逃げ切った」と安堵したことを覚えています。
これが僕の「ファーストベア」です。
なんせ20年以上も前の話なので、一部記憶違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
体験こそ血となり肉となる
自衛隊の大規模演習は、「A部隊vsB部隊」みたいな模擬戦闘の訓練で、普通に捕まって捕虜になったりします。
この演習中も、敵チームだった持続走訓練隊のM班長に、空砲バカスカぶっ放されながら追いかけられたり、偵察に出掛けたS班長が捕まって捕虜になり、新隊員ひとりで丸一日熊の出る山の中でビバークさせられたりと、いろいろありました。
とりとめのない話になりましたが、今の自分を作る「原体験」はこの頃だったような気もします。
こういった体験の積み重ねが、今の自分を形作っているのかなと。
訓練中のカッコいい写真とかあったんですけど、当時付き合っていた子にあげました。
まだあのシステムはあるんですかね?
「はがき賞」
分かる人には分かるかも。
貰うたびに、ばあちゃんとか彼女に送っていました。若気の至りですね。
今でも現役で頑張っている同期もいますので、自衛隊のみなさんのこと、応援しています。
頑張れ自衛隊!(なんの話w
あんまり山とは関係ありませんが、ブログを放置気味でしたので、ふと思い出した話やSNSに上げるようなことでもないようなことを、ツラツラと綴りたいと思います。
それではまた次回。
See you next mountain.
バイバイー!